くしかわ姫(8)
ある満月の夜、若君はとつぜん旅の姿で姫君の前に現れた。
「父の用で他国へ行くことになりました。一年たったら帰りますゆえ、それまで待っていてくだされ。これは私がそなたのために彫った櫛じゃ。これを私だと思って大切に持っていてくだされ。この櫛に私の命をたくして、いつもあなたの傍におりまする。」
若君は金銀象嵌の見事な櫛を姫君に贈った。別れを悲しんで泣き伏す姫君の髪にそっとさしてやった。見つめあう二人の目からとめどなく涙があふれてきた。
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