くしかわ姫(5)
いつか琴の音はやんでいた。
若君が酔ったように笛を吹いていると、うしろにひとりの姫君が立っておった。
若君は驚いて
「さきほどの琴の音は、姫君でございましたか。」
「はい、私はこの館に住むものでございます。笛の音にみちびかれてここまでまいりました。どうぞもう一曲お聞かせくだされ。」
若君はこわれるままに心をこめて吹いた。じっと聞き入る姫君の長い髪がつやつやとして、それは美しい方であった。
二人は、つぎの満月の夜に会うことを約束なさったと。

戻る   三姫物語へ   次へ